2020-01-01から1年間の記事一覧

にんげん

東横線の計画的に立てられた落下防止ドアの前の薄黄色い点字ブロックの上のにんげんの足がざすっと入りそうな隙間の前に、黒い携帯が落ちていた。駅の床は薄灰色で、一回だけ吐瀉物が酔っ払いの千鳥足と下向かぬ乗客の足に伸ばされて薄オレンジになっている…

検温のとき

記憶が、それも数年そこら前の記憶に自分がいない。こういうことがあった、こういうことを感じた、それだけが残り、今ここにある肉体が、精神がその延長上にあるとは身が持たない。そうであっても、たとえば過去の友人に会い、過去の時を反芻し、思い出した…

夜からの続きの朝

「幸せの家庭」というものがあった。あったが、それは形を変容させるものだった。孤高の理想ではなかった。それでもよいという実感を、そうではないところから完全に分離させ、引っぺがして情緒に縺れず、一己としてあってみせることにしか興味がない。流さ…

世界のことを考えなくなってうんぬん、日々の切れ目が休憩の睡眠になり連なる日日日、のなかで考えなくなった世界はねむり、うしろへかくれていく。久々に聞いた音が細胞の方に染みるが溶けない脳きこえるそとのおとはザール

かなへ開くことや小さな文字への意味のこだわりを忘れぬでもなく当たり前にする日々を逃さないでいたい

こうして世界は伸びちぢみ、突然蘇り、又息絶え、われわれの周囲で、たえずいらいらと変様している。重一郎は片っぱしから、日常の道具の効用と、それらがたえずわれわれに強いている卑小な目的とを疑った。雨の日には、傘が彼の頭上にわけのわからぬ黒い形…